第60回リアルトップセールスインタビュー

人材サービス(上野さん)

第60回のリアルトップセールスインタビューは人材教育サービス業界にお勤めの上野さんです。

 

上野さんは、ビジネスマンに対してビジネスコミュニケーションのトレーニング講座をご紹介する仕事を行っています。

 

営業のスタイルは広告からの反響営業であるため、毎月、お問合せがあった見込み客が各営業マンに均等に割り振られます。

 

そしてその見込み客に対して成約にまで持っていくことが上野さんの役割です。

 

ということは、営業の優劣を判断する材料は“成約率のみ”です。

 

その中で普通の営業マンが約30%の成約率に対して、今回インタビューした上野さんは成約率がなんと!!『50%』なのです。

 

100人の見込み客に対して30人獲得できるところを50人獲得している計算になりますので、約1.7倍の売上を獲得していることになります。

 

『1.7倍』です!

 

では、その成約率50%、そして1.7倍の売上を確保した営業ノウハウとはどのような方法なのか。

 

さっそくその方法をご紹介したいと思います。

 

 

■業界特有の難点

上野さんは現在20代前半です。

 

非常にお若いにも関わらず、しっかりとした対応をされるので感心していたのですが、しっかりとした立ち振る舞いができるようになったのも、業界特有の問題がそうさせたようなのです。

 

というのも、今、上野さんが取り扱っている商品は、「ビジネスコミュニケーション」というもので、コミュニケーションにコンプレックスを持っておられる方が来店されます。

 

また、お客様はビジネスマンということもあり、ほとんどの確率で自分よりも年上のお客様がご来店されます。

 

お客様としてはコンプレックスを感じていることについて年下の人間に相談しなければならないという点で、接客に少しでも違和感があると本音を話してくれなくなります。

 

お客様から本気で相談されない関係になってしまえば成約は極めて難しくなり、そうならないように、いかに相手が話しやすい環境を作るかに心血を注いでいるのです。

 

 

■逆の視点

では、相手の話しやすい環境を作るためにどのような工夫をしているのでしょうか?

 

その話に切り込んでいくと次のような教訓が出てきたのです。

 

その内容を列挙すると、

 

・立ち振る舞い、言葉遣いに失礼のないようにする

・相手が口にしたキーワードを聞き逃さない

・上から目線にならないようにする

 (例:コミュニケーションが苦手なようには見えないなど口にする)

・同じ質問を2度しない

・相手の話をさえぎらない

・余計なことは言わない

・理詰めのコミュニケーションはNG

・理屈だけでは信頼されない

・あいづちを忘れない

・・・・・

 

その1つ1つはそんなに驚くべき話ではないかなと思っていたのですが、最後の一言に衝撃が走ったのです。

 

そして、その言葉に営業の本質を感じたのです。

 

その言葉がこちらです。

 

【上野さん談】

「営業というのは成約率を100%にすることはできません」

 

「なので、絶対成約に持っていける営業手法というものはないと思っています」

 

「ただ、ミスをしない営業というのは目指すことができるはずです」

 

「だから、『どうすればうまくいくかというよりも、どれだけNGを避けられるか』に、いつも注意しているのです」

 

私にとってこれは思わぬ言葉でした。

 

私を含め多くの営業マンは、営業で業績を上げるために「どうすればうまくなるのか」という点をいつも気にしています。

 

そして、うまく営業するための新たな手法があればそれに飛びつき、その方法論を試してみる。

 

しかし、トップセールスとして業績を上げている人は、突飛な手法に飛びつき溺れるのではなく、愚直にミスを犯した事例を収集し、愚直にそれを回避する行動をとり続けているのです。

 

魔法のような営業手法や説得技術ではなく、ミスを極小化する営業を目指しているのです。

 

これが上野さんの本質であり、営業の本質なのです。

 

 

■失敗から学んだ教訓

では、なぜ上野さんは『どうすればうまくいくかではなく、どれだけNGを避けられるか』に注意するようになったのでしょうか?

 

それはある見込み客との営業経験が、ミスのない営業を目指すきっかけになったようです。

 

その営業経験とは、ある30代の女性が後輩の指導の仕方が分からないという相談があり、そのニーズにあった講座を提案していた時のことです。

 

上野さんが提案した講座は、まさにその女性の悩みにぴったりのもので、その必要性も理論立てて説明し、非の打ちどころのないような提案に仕上げたのです。

 

しかし、クロージングの段階で、それまで少しおとなし目の女性から衝撃的な言葉を投げかけられたのです。

 

女性客「確かに、ご提案していただいた講座は良いと思うのですが、あなたが信用できません。なので、この話はなかったことにしてください」

 

上野氏「えっ?・・・・・・・・・・・・」

 

自分の中では完璧だと思っていた理論立てた提案が、理論とは全く別のところで覆されてしまったのです。

 

このお客様に言われた一言がきっかけで、本気で相手を気遣う気持ちがなければ、どれだけニーズと合致した提案をしても無駄であるということを学び、それ以降は相手の感情面に非常に注意を払うようになっていったのです。

 

失敗から学んだ教訓。

 

それが上野さんの高い成約率を形作っているのです。

 

 

■水田チェック

今回のトップセールスである上野さんの事例を裏付けるおもしろい研究が世の中にあります。

 

その研究とは、行動科学の研究者であるウェンディ・ジョンの研究で、成功例と失敗例のどちらに重点を置いてトレーニングすべきなのかという研究です。

 

この研究はある消防士に対して行われた研究で、1つは優れた判断によって悲劇的な結末を避けられた実例をもとに作られたトレーニング、もう1つは消防士の誤った判断で残念な結末に至った実例をもとに作られたトレーニング。

 

このどちらがトレーニングとして効果を発揮するのかというものです。

 

トレーニングを行った結果、その後、判断力がはるかに向上したのが後者

 

いわゆるミスが起きた事例を取り扱ったトレーニングだったのです。

 

行動経済学に「損失回避性」という言葉があります。

 

これは「人は利益を得ること」よりも「損失を回避すること」の方が強い動機づけになるという人の心理です。

 

この研究が立証しているように、上野さんの失敗を回避するという考え方は、どうすればうまくいくのかという考え方よりも人の意識レベルに強く働き掛け、結果、大きな成果を生むことにつながっているのではないかと私は考えています。